出生数の急減で、死亡数が出生数を上回る自然減が51万2千人に達します。戦後初めて50万人の大台を超え、鳥取県の人口に近い人が減ったことになります。縮小する親世代がさらに小さくなる子世代を生む縮小再生産が始まっています。
出産の先行指標ともいえる婚姻件数は、2018年が58万6,481件で前年比3.4%減です。2019年の出生数の5.9%減ほどには減っていません。総務省の労働力調査によれば、25~34歳の女性の就業率は80%を超えています。若い世代ほど男女共働きが多くなっています。世界を見渡せば、女性の就業率が上昇すると少子化になるというわけではありません。スウェーデンなどでは女性の就業率が高く、出生率も2017年で1.78と高くなっています。男女とも長時間労働が少ないなど、働き方の違いが大きな背景とみられます。日本国内でも一部の企業が長時間労働の見直しに取り組み、働き方改革を進めた結果、第2子以降を出産する女性社員が増えている企業もあります。少子化克服には政府の対策だけでなく、新卒偏重の是正や働き方改革をさらに進めていく必要があります。
わが国の平均初婚年齢は男性が31歳、女性は29歳で、20年前に比べそれぞれ3歳程度上がっています。第1子出産の母親の平均年齢は30.7歳です。出産年齢が上がると、当然のことながら子どもを授かりにくくなります。出生率が高いフランス(2017年で1.90)などと比べると、日本は20歳代の出生率が特に低くなっており、少子化につながっています。20歳代でも子どもをもてるようなキャリアプランが立てられる企業努力も必要となります。
2003年に少子化社会対策基本法が成立し、政府は仕事と子育ての両立や待機児童対策、保育料無償化や働き方改革、男性の育児参加などを推進してきました。2019年10月からは幼児教育や保育の無償化も始めています。子育て世帯への支援は強化されてきていますが、政府の少子化対策は出生後が中心です。2019年の出生率も1.42と前年を変化しておりませんが、結婚して子どもを産みたいと考える人の希望がかなった場合の出生率である1.8とは大きな開きがあります。
出産適齢期の女性の数が減っていますから、出生数の減少は続きます。しかし、子どもを希望する世帯が2人目、3人目を産み育てやすい環境を整えることで、出生率の減少に歯止めをかけられる可能性はあります。それには男性が家事や育児を分担しやすいように企業や社会の意識を変えることが必要となります。男性の育休取得促進や、子育て中の男性が早く帰れるような企業側の理解・協力が欠かせません。男性が家事や育児のスキルを学べる機会の提供も必要です。
出生率が高い欧州の国でも、30歳代の出生率は日本と実はあまり変わりません。20歳代のうちに産み、育てられる環境をつくることが重要です。長年の少子化で、そもそも親となる年代の人が年々減っています。結婚や出産を望むかはもちろん個人の選択ですが、産み育てやすい環境を整え、希望出生率1.8につなげるのは、国の責任です。もし出生減に歯止めがかからなければ、今後も人口は減り続けます。今、有効な手立てを講じなければ、その国の未来に希望はもてません。加速する人口減少は、日本社会の持続可能性に黄色信号を灯しています。
(2019年12月25日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)