血液に含まれる微量な物質を分析する技術が急速に進歩しており、わずか1滴の量があれば、がんや認知症などの初期段階で微妙に変化する成分を検出できるようになってきています。東京医科大学と国立がん研究センター、東芝の共同研究グループは、血液1滴でがんを診断する技術2019年に開発しています。分析対象は、がん細胞から血液中に漏れ出すマイクロRNA(リボ核酸)です。血液中には、常に2,500種類ものマイクロRNAが存在します。東芝が微量のマイクロRNAを増幅する方法と種類を解析する素子を開発し、簡単に精度が高く診断する技術を開発しています。乳がんや大腸がんなど13種類について、患者と健康な人を99%の精度で、2時間以内の短時間で見分けられます。
島津製作所と国立長寿医療研究センターなどが、2018年に発表した技術は、脳内に蓄積してアルツハイマー病の原因となるアミロイドβと呼ぶたんぱく質の断片(ペプチド)を質量分析で調べることができます。3種類のペプチドが対象で、比率から蓄積の度合いを90%の正確さで判定でき、時間も3時間強で診断できます。また、がん研究会では、質量分析装置を用い、血液に含まれているたんぱく質PSAの表面に付いた高分子糖鎖の種類を調べることにより、前立腺がんと前立腺肥大を98%の精度で判別できるとしています。
多くの患者で精度を確認できれば早期発見法として使えそうです。少量の血液による正確な診断技術は関心を呼んでいます。現在ではまだ難しい、早期の治療や進行を遅らせる対策などが、近い将来実現できそうです。健康診断につきものの採血の方法なども変わっていく可能性がでてきています。
(2020年1月12日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)