大阪大学の予防グループは、iPS細胞から育てた心臓の細胞をシート状にし、重症心不全患者に移植する世界初の手術をしたと発表しています。医師主導臨床試験(治験)として1月に実施し、経過は順調だとのことです。iPS細胞から作製した心臓の細胞を人に移植する再生医療は世界で初めてです。目の難病などで移植手術が始まっていますが、命に関わる心臓病で治療効果が確認されるかが注目されます。
京都大学が蓄積するiPS細胞を培養して増やし、心臓の細胞を作りました。これを凍結保存しておき、手術日程に合わせて解凍して培養し、シート状に加工しました。手術では心筋梗塞などで傷んだ心臓の患部に貼り付けています。1年間の経過観察で、安全性や心機能の回復度合いなどの有効性を調べます。現状では、重症の心不全の根治には心臓移植しかありません。しかし提供者(ドナー)が不足しており、治療を受けられない場合が多くなっています。そのため重症の心不全の新しい治療法として期待されます。
iPS細胞を用いた心臓の再生医療については、慶應義塾大学が心臓に注射針で心筋細胞を注入する臨床研究を計画しています。筑波大学では体内で心臓の細胞に遺伝子を導入する遺伝子治療の研究開発も進んでいます。iPS細胞については、さまざまな臨床研究が始められていますが、患者にとって本当に有効な治療法であるか、その効果が報告された明らかな研究成果は、これまで報告されていないのが残念です。多額の研究費が使われていますが、明らかな有効性は示されていません。
(2020年1月28日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)