キムリアは、手術や抗がん剤、放射線に続く第4のがん治療法と言われる免疫療法の一つです。患者の免疫力を利用して、がん細胞をやっつけます。まず、患者から免疫細胞(T細胞)を含む白血球を採取し、米国にあるノバルティスファーマ社の製造工場に送ります。そこで患者のT細胞に、がん細胞を攻撃するよう、遺伝子操作し、日本の病院に送り、体内に戻します。対象は、急性白血病の一種であるB細胞性急性リンパ性白血病(25歳以下)と、悪性リンパ腫の一種であるびまん性大細胞型リンパ腫の2種類です。キムリア治療に公的保険が適用されたのは昨年5月で、実際に患者から免疫細胞の採取が始まったのは9月末です。
キムリアの使用によって重い副作用が出る人もみられます。特に注意が必要なのが、呼吸困難や出血の恐れがあるサイトカイン放出症候群です。キムリアによって免疫の働きが活発になると、大量に免疫細胞からサイトカインが出て、正常な細胞を傷めてしまいます。幻覚や妄想、意識障害などの神経症状や脳症が起きることもあります。腫瘍が急速に死滅して壊れた細胞の成分が血液中に出ることで、血液成分のバランスが崩れて腎不全などの重い症状が起きる腫瘍崩壊症候群も発生することがあります。これらの副作用は投与から約3週間以内に起こります。
治療希望者全員が受けられない点も課題となっています。保険適用が決まった2019年5月時点で、ノバルティスファーマ社はキムリア治療を受ける人数は多くて年間200人程度と見込んでいました。現状発注できるのは、製造能力などに合わせ、1病院につき月1~2人分となっています。病院側の受け入れにも限度があります。一因は、重い副作用への対応です。サイトカイン放出症候群などが起きれば、1~2週間は集中治療室(ICU)での治療が必要になります。キムリアの患者を増やすと、事故や急病での重い患者を受け入れるベッド数が減り、救急医療に影響が出る可能性が出てきます。
(2020年1月25日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)