夫婦同姓の歴史は、明治時代に遡ります。1898(明治31)年施行の民法に盛り込まれ、1948年の改正民法でも750条として残りました。しかし、1996年に女性の社会進出を背景に、法相の諮問機関である法制審議会は、夫婦が別の姓を名乗る権利を認める民法改正案を答申しました。2015年には、夫婦同姓制度をめぐる訴訟で、最高裁が家族の姓を一つに定めることには合理性があると初の合憲判断を示す一方、制度の在り方は国会で論じ、判断するものと述べ、立法の場での解決を求めました。
強制的夫婦同姓は、日本の他にはない制度とされています。それでも国会は議論を先送りにし、保守派を中心に夫婦別姓は家族の一体感を損なうとの考えは根強いものがあります。年間離婚件数が結婚の3分の1と言われる今、子と親の姓が違うことも珍しくありません。
旧姓使用は、確かにここ数年でぐっと浸透してきています。2016年の内閣府調査によれば、条件付きも含めて旧姓使用を認める企業は5割に達しています。大企業では、75%にも上っています。公文書での旧姓併記も昨年一気に進み、運転免許証や住民票、マイナンバーカードも旧姓をカッコつきで併記できるようになっています。総務省の2017年度の調査では、職業を持つ女性は5割超であり、こうした中で、国は戸籍書類がなくても旧姓を証明しやすくするため、旧姓併記を進めています。
家族の形が多様化する中、少なくとも選択的夫婦別姓制度を早めに取り入れるべきだと考えます。現行の法律では、事実婚では不妊治療の助成は受けられない、片方が死んでも相続権がないなど旧姓使用が進んでも厳然と残る格差があらわになっています。結婚しても本名として自分の名前で生きたいという女性もいます。こういう人の選択肢は事実婚しかありません。夫婦同姓制度とは、結婚する女性は家庭に入り、家事や育児をするといった性別役割分担意識の残滓に起因すると思われます。
(2020年2月25日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)