2024年以降、勤務医の働き方改革が実施に移されます。時間外労働の上限は原則として年間960時間に制限されます。しかし、厚生労働省は一部に限って、年間1,860時間まで認める特例を設ける方針です。これに①1回の連続勤務は28時間まで、②退勤から出勤までの時間(インターバル)は最低9時間を確保するなどといった規制が加わります。規制によって働き方を変える必要があるのは、主治医として手術や術後の管理をしている外科医や産科医などです。
昨年9月、厚生労働省は、地方自治体が経営する公立病院と日本赤十字社などの公的病院について再編や統廃合の議論の必要があると認定した424病院を公表しました。心疾患、脳卒中、救急など9分野の高度医療について、診療報酬明細データを分析して、診療実績が乏しい、機能を代替できる病院が近くにあるなどの基準をもとに選び出しました。厚生労働省が、批判覚悟で荒療治に乗り出したのは、ある医療圏内でいくつかの病院に分散している外科医などを拠点病院へ集中させなければ、勤務医の働き方改革ができないと考えたからと思われます。
医師の働き方改革の影響は、医療界にとどまらず、患者側にもふりかかります。医療費を負担する健康保険の財政窮迫という制約から、日本全体の医師数は簡単には増やせません。医師の働き方改革によって、深夜に救急患者を受け入れる病院が減ったり、がん患者などにとっては手術を受けるまでの期間が長引いたりすることも考えられます。
今後は、病院が提供する医療サービスは、主治医制からチーム制が主体になっていくと考えられます。一人の患者をグループで診ていく体制になります。長時間の手術の場合、執刀医の途中交代も起こりえます。こうした医療体制の変化を患者も納得するような国民の意識改革が必要になってきます。医師の働き方改革は、診察科や地域による医師の偏在問題や医学教育のあり方にも影響をおよぼす重い政策課題ですが、医療者、患者間の相互理解が大前提となります。
(吉村 やすのり)