4月より、京都大学iPS細胞研究所の一部機能を分離した新たな財団法人が始動します。iPS細胞を利用した再生医療の普及に向けて細胞提供事業などを担うことになります。国の予算が2022年度末に切れたとしても、寄付金で運営することができるようになります。京都大学が担ってきた再生医療向けのiPS細胞を製造して備蓄するストック事業を引き継ぎます。これまでは政府の予算で運営されており、2013年度からの10年間、年27億円の予算を投じる計画でした。これまで18の研究機関や企業などにiPS細胞を分配し、一部は別の細胞に育ててから人に移植されています。
ストック事業は当初、10年間で移植した際の拒絶反応が少ないタイプのiPS細胞を140種類備蓄する計画でした。しかし、現在では当初の計画を変更し、国民の多くで拒絶反応が起きにくい数種類のiPS細胞の備蓄や配布、整備した施設を活用した企業支援をしています。
備蓄事業は研究の意味合いが小さく、以前より大学が取り組むことは不適切という指摘もありました。京大から財団に移行する理由は、運営や雇用の自由度を高めてiPS細胞を使う再生医療の開発を促すためです。財団は寄付を中心に運営して、安価にiPS細胞を提供し、企業の技術支援をすることで原料費や開発費を低減し、製品価格を抑えるのにつなげたいとしています。
iPS細胞を利用した再生医療については、患者での臨床研究や治験がいくつか進んでいます。これまでに京都大学は脳、大阪大学は目の角膜や心臓の病気の患者に移植手術をしています。慶應義塾大学の脊髄損傷や心臓、京都大学の軟骨などの再生医療の研究でも、近く移植が始まる見通しです。しかし、安全性や効果の詳細な検討はこれからで、再生医療が治療医学として普及するかどうかはまだ分からないところがあります。
(2020年3月27日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)