障害者に労働という形で社会参加を促すのは国の方針です。障害者の生活を支える障害基礎年金の支給額は、月6万5千~8万円ほどです。これだけで自立して生活するのは難しいのですが、1千万人近い国内の障害者のうち、民間企業などで働く人は1割に満たない状況です。精神障害者には、専門的なスキルを身に付け、健常者と変わらない成果を出す人が少なくありません。しかし、コミュニケーションが苦手だったり、気分の好不調の波が大きかったりするため、健常者と同じペースで働くのは難しいことが多くなっています。雇用数はまだ多くはありませんが、身体障害者と比べて若い世代が多く、採用数の増加が見込まれます。精神障害者が働きやすい職場づくりが、企業にとって大きな課題になりつつあります。
1960年に、国をはじめ公的機関に一定割合を超える障害者の雇用を義務付ける法定雇用率の制度ができました。1976年から、雇用義務の対象が企業にも広がりました。この制度は、障害のある人の働く権利を守り、共に生きる社会をつくるための制度です。国や自治体は、企業より高い法定雇用率を設定しています。法定雇用率は徐々に引き上げられ、2018年4月から国や自治体は2.5%、企業は2.2%になりました。来年3月末までに、さらにそれぞれ0.1%引き上げられます。
民間企業での障害者雇用数は、少しずつ増えていますが、法定雇用率である2.2%を満たしている企業の割合は48%と、半数に届かない状況です。現状の障害者雇用の仕組みには、民間企業の雇用を後押しする一方で、雇わずに済む抜け道があります。常用労働者100人超の企業は、法定雇用率を達成できない場合、不足する1人につき原則月5万円を支払う納付金の制度があります。あつめられた納付金は、法定雇用率を上回って障害者を雇う企業に調整金として渡されます。超過一人あたりに支給される調整金は、月2万7千円です。受け取り手には大企業が目立っています。中小企業が大企業に補助金を出すおかしな構図になっています。
人件費が税金で賄われる役所と違い、民間企業、とりわけ従業員を1人雇うのにも慎重にならざるをえない中小企業が、障害者雇用を広げていくには、相当な工夫が求められます。例えば障害の実情にあわせて在宅勤務を柔軟に使えるようにする、時々の体調に応じて、フルタイム勤務と短時間勤務を選択できるようにする、体調や精神面の変化などを日報に書いてもらい、小さな変化を見逃さないようにするなどといった施策が考えられます。障害者が少しでも違和感なく働けるための小さな工夫を積み重ねることが、企業に求められます。
(2020年3月30日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)