新型コロナウイルスの感染拡大が中々止まりません。緊急事態宣言が出て、外出自粛が呼びかけられていますが、法的に外出や店舗営業の制限を強いるわけではありません。国民に協力をお願いして、外出を減らして、感染を封じ込める策です。しかし、予断を許さない状況にあります。感染は急増中で、明日にでもニューヨークやスペインのようになるかもしれないと危機感を煽られています。しかし、日本の対策は、民主主義国の中でも異例なほど緩やかです。戦前の国家主義への反省から、日本は国家に大きな強制力を与えるのに慎重で、憲法にも緊急事態の条項はありません。
中国においては武漢を2ケ月半にわたり徹底した都市封鎖をしました。欧州ではコロナ禍にある多くの都市で原則外出禁止を打ち出し、罰則規定を設けている国もあります。それにもかかわらず、感染拡大が制御されたとは言えない状況に陥っております。わが国の感染症対策は、中国の強権主義と対極にあり、人権を尊重したやり方であり、生ぬるいといった指摘もあります。
各国専門家は、特に日本の検査数が少ないことを不安視しています。日本政府もようやく検査を増やし始めていますが、検査対応能力に限界があり、十分とは言えない状況にあります。感染者は統計よりかなり多く、感染爆発の恐れがあるとの観測も流れています。しかし、コロナ禍で最も大切なことは重症例や特に死亡者数を抑えることです。日本の死亡者数は300人前後であり、米国の4万人台やイタリア、スペインの2万人台よりもずっと少ない状況にあります。この死亡者数からすれば、今のところ欧米に比べて、対応ができていると言ってよいと思います。しかし、市中感染が急増しており、1カ月後にどうなるか、極めて注意が必要な局面であることは疑う余地もありません。
新型コロナの感染拡大は、院内感染を招き、医療崩壊につながります。現在、高度な医療を担う特定機能病院では手術は緊急手術を除き、軒並み延期されています。手術前に病院独自の判断でPCR検査をしている医療施設も出てきています。また分娩前の妊婦においても市中感染の広がりを考えれば、無症状性ウイルス感染者が一定数いると思われます。このような病状のない妊婦に対しても分娩前に手術予定者と同様にPCR検査を実施すべきです。その際にはPCR検査に保険適用を認めるなどの措置が必要となります。感染者数の実態を把握するためにPCR検査を増やすことも大切ですが、現在の状況を考慮すれば、まずは医療崩壊を防ぐためにも手術患者や妊婦のPCR検査を実施することが大切です。
人との接触を8割抑制できれば、新たな感染は大きく減らせることができるとしています。安倍政権はこれを踏まえ、接触の8割減を呼びかけています。しかし、中々この水準には達していません。実現には都市封鎖(ロックダウン)に近い措置が必要との指摘もあります。人々に自粛を求め、8割減にもっていけるなら、それが最善です。努力をさらに尽くすべきですが、今後改正新型インフルエンザ対策措置法を再び改正し、行動抑制を強めることが必要になるかもしれません。死亡者の数が現状で推移すれば、何とか持ちこたえられるのではないかと愚考しています。
(2020年4月23日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)