生殖医療と周産期医療の狭間で―Ⅱ

和協
わが国における多胎出産率は、ゴナドトロピン製剤が排卵誘発剤として臨床応用された1960年代から徐々に上昇し、保険適用された1970年代になるとさらに上昇した。その後 IVF-ETが盛んに臨床応用されるようになった1990年代になると、双胎のみならず3胎以上の超多胎出産率が急激に上昇した。この多胎の増加が、当時十分とはいえなかった周産期医療システムを大いに逼迫させる状況に陥らせた。そのため日本産科婦人科学会では移植胚数と妊娠率および多胎妊娠率を検討し,1996年に「体外受精・胚移植においては移植胚数を原則として3個以内にする」という多胎妊娠を予防するための見解を出している。
移植胚数の制限以来、3胎以上の超多胎の出産率は低下したが、双胎の頻度は変わらず、むしろ実数は増加していた。2000年代に入ると生殖医療に従事する医師も周産期医療の窮状を理解するようになり、妊娠率のみを希求することなく、多胎防止に努めるようになった。2008年4月に日本産科婦人科学会は、 「ARTの胚移植において、移植する胚は原則として単一とする。ただし、35歳以上の女性、または2回以上続けて妊娠不成立であった女性などについては、2胚移植を許容する」との見解を出している。このように、わが国においては、世界に先駆けてARTにおける多胎妊娠を防止するために移植胚数の制限に取り組んできており、現在の多胎妊娠率は3%前後であり、依然20%前後の欧米に比較し極めて低率であることは瞠目に値する。この多胎妊娠率の低下は、周産期医療の負担を軽減させることに大いに貢献した。

(生殖医療と周産期のリエゾン 診断と治療社)
(吉村 やすのり)

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