生殖医療と周産期医療の狭間で―Ⅲ

社会的要因の変化
社会に進出して仕事に生き甲斐を見い出す女性が増えている。このキャリア形成願望が未婚化につながり、晩婚化・晩産化傾向がみられるようになっている。キャリア形成に力を注ぐため晩婚化が進み、結婚したとしても子どもをつくらないというカップルが増えている。その中には、「つくらない」というより「つくれない」という場合もある。社会的なインフラなどの体制の不十分さが問題であり、子どもをつくらない、つくれない夫婦が悪いわけではない。しかし、30歳代後半になり、妊娠時期を逸してしまうのではないかと焦ったり、自らのキャリア形成の節目を迎えると、急に子どもをつくりたいと思うようになり、その結果として高齢妊娠や出産が多くなっている。
女性の結婚年齢の上昇やARTの発達により、高齢妊娠は増加している。現在、ARTを受けている女性の4割以上が40歳を超えており、2割前後の欧米に比し極めて高率である。高齢妊娠においては、偶発合併症妊娠、流産、染色体異常、多胎妊娠などのリスクの増加があり、分娩時には難産や帝王切開率の増加が挙げられる。また、妊娠高血圧症候群や子宮筋腫などの合併症妊娠の増加により、胎児発育不全や早産が起こりやすく、結果として低出生体重児が多くなる。さらに母体死亡や周産期死亡についても高齢妊娠で増加すると考えられている。しかしながら、近年の周産期医療の充実により、わが国の周産期死亡率や母体死亡率は、欧米諸国と比較しても極めて低率のままである。生殖医療や周産期医療の臨床に長年に携わっている産婦人科医は、高齢妊娠であっても女性が無事に出産できるよう全力を尽くしており、子どもがほしいと願う女性の力になることを渇仰している。
わが国におけるIVF-ETなどのARTの治療周期数は年々増加の一途を辿ってきた。ARTを受ける女性の年齢が高齢であることから、わが国では自然周期やクロミフェンによる低刺激法が用いられることが多く、生殖年齢にある女性の減少にもかかわらず、治療周期数は右肩上がりを続けてきた。しかし、2017年の日本産科婦人科学会の最新データによれば、治療周期数は高止まりの傾向にあり、今後はARTを受けるカップルの絶対数の減少により、治療周期数も減少してゆくと考えられる。そのため、今後生殖医療の実施に際しては、周産期医療やARTに携わる医師が互いに緊密な連携を取り合うことがより一層大切となり、生殖医療従事者は施術前に適切なクライエントのリスク評価をし、医療手技の説明のみならず妊娠した場合のリスクを伝えることが必要となる。生殖医療及び周産期医療の従事者にとっては、妊娠・分娩させることが最終目標であってはならず、生まれた子どもの生涯についても責任を負うことを改めて認識すべきである。

(生殖医療と周産期のリエゾン 診断と治療社)
(吉村 やすのり)

カテゴリー: what's new   パーマリンク

コメントは受け付けていません。