今回の新型コロナ禍は、わが国のパンデミックに対する備えの不備を露呈しました。日本の医師数は先進国でも少なく、OECDの発表によれば、人口千人あたりでは2.4人とドイツの半分ほどで、G7では最少です。看護師数は1千人あたり11.3人です。これまで医療界も、供給過剰になる恐れがあるなどとして医師抑制に同調してきました。この医師数の少なさにも増して問題となるのが、感染症専門医の不足です。
日本感染症学会によると、全国の大規模な病院における常勤専門医は、3千~4千人程度が適正であるのに、半分くらいしかいません。国も感染症の病床を減らしてきました。厚生労働省の医療施設によると、感染症病床数は2018年10月時点で1,882床に過ぎません。1998年の病床数に比べ5分の1まで減少しています。
国は病院の収入の基準となる診療報酬も抑えてきました。病院の厳しい経営環境が、感染症対策を難しくしている面があります。感染症対策には、施設の整備や資材の確保など費用がかさみます。対策を徹底しても、患者が増えるといった経営改善にはつながりにくい状況にあります。また、職員の研修も必要でお金と時間がかかります。診療報酬では十分な点数が加算されず、病院にとっては感染症部門は負担となってしまいます。
感染症拡大で一般患者が減り手術も延期して、ほとんどの病院は大幅な減収になっています。国は、感染者の治療について診療報酬上乗せの特例を決めましたが、経営はすぐには改善しそうもありません。今回の新型コロナによるパンデミックは、普段から感染症対策にお金をかけていないと、例え平時には不採算部門であっても危機時に医療が崩壊し、経済が大ダメージを受けてしまうことを示す教訓として受けとめなければなりません。
(2020年4月28日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)