ポストコロナの労働市場

需要と供給の一致点で価格が決まることを表した図は、マーシャリアン・クロスと呼ばれ、経済を分析するうえで基本的な考え方となっています。右肩下がりの需要曲線と右肩上がりの供給曲線が交わる点が、市場で取引される最適な価格と数量であることを表しています。モノの価格は短期的には需要で、長期的には供給で決まるとしたのが、19世紀後半の英国の経済学者アルフレッド・マーシャルです。
需要が短期間で大きく揺れ動くのに対し、供給はゆっくりとしか変化しません。それがマーシャルの時代の前提でしたが、機械化が進んだ現代では、供給を一気に増やせるようになっています。近年の技術革新はその流れを一段と加速させています。感染リスクを目の当たりにし、製造現場では自動化や無人化が進むとの見方が多くなっています。
新型コロナウイルスの感染拡大により、今後は人をAIやロボットに置き換える傾向が進み、単純な労働力はますます価値を生まなくなっていく可能性があります。生産活動に労働者はだんだん必要なくなり、労働は価値を生み出す大きな源泉ではなくなっていきます。ポストコロナ社会では、労働者の数ではなく、いかに頭脳のレベルの高い少数の人を集め、育成するかが重要になる頭脳資本主義になっていくかもしれません。しかし、技術の発展が、必ずしも全ての人を幸福にするわけではないことを銘記しておくべきです。

(2020年4月30日 読売新聞)
(吉村 やすのり)

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