皮膚に傷ができると、傷口から浸出液と呼ばれる体液がしみ出てきます。浸出液は、傷が治るのに必要な細胞を増やしたり、活発に働くようにしたりする役割があります。傷口が乾燥すると浸出液が固まり、皮膚の組織が壊死して傷口を覆うようにかさぶたができてしまいます。そうなると浸出液の機能が十分に発揮されなくなってしまいます。湿潤療法とは、浸出液を乾燥させずに傷口に潤いを保って傷を早く治す方法です。
まず傷口についた血液や砂などの異物を、水できれいに洗い流し、清潔なタオルなどで水気を拭き取ります。止血した後に、水分をとどめる効果のあるハイドロロコイド素材を使った医療用の保護パッドを傷口に貼ります。傷口に消毒は不要です。傷口を消毒すると、健康な皮膚や、傷を治そうとする細胞にもダメージを与えてしまいます。合成界面活性剤が使われているタイプの石鹸や液体ソープで傷口を洗うと、皮膚の細胞膜が壊されて傷を深くし、痛みを増してしまいます。
湿潤療法は、転んで擦りむいた傷や靴ずれ、包丁などでスパッと切れた浅い傷、熱い鍋に触れた軽いやけどなど、日常的に起こる傷の手当てに適しています。水で洗い流しても異物が取れないケースや圧迫しても出血が止まらない場合、傷口が深くギザギザになっていたり、しびれや痛みが続いたりする時は、家庭での湿潤療法は見合わせ、医療機関を受診するようにします。
見た目より傷が深い場合がある刺し傷や、動物に噛まれるなど細菌感染のリスクがある傷には、湿潤療法は適しません。1週間以上経っても傷口がじくじくしてふさがらないといった時には、細菌感染が疑われるので、抗菌薬の投与が必要になります。
(2020年4月25日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)