新型コロナウイルスの重症化に関わるメカニズムの一つとして注目されているのが、細胞の表面にある受容体たんぱく質であるACE2です。ACE2(アンジオテンシン変換酵素2)は、心臓や腎臓などの細胞表面に多いとされる受容体たんぱく質で、心臓の保護、血圧や血管の調整などの機能があることが知られています。ACE2は、2003年に流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)のウイルスと同様、新型コロナウイルスが細胞への侵入の足場として利用していることがわかってきています。ACE2は、肺や心臓、腎臓、腸など人体の広範囲に現れています。持病や喫煙の影響で、臓器などの細胞表面にあるACE2の数や働きが変化している可能性があります。
糖尿病や高血圧では、治療薬がACE2の増加を誘因するとの報告がされています。米ルイジアナ州立大学の動物実験では、高血圧の治療に使うアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬が、肺などのACE2を増加させていることが判明しています。欧州疾病予防管理センター(ECDC)は、ACE2が喫煙で活性化するため、喫煙者が感染する恐れがあると指摘しています。
新型コロナウイルスは、ACE2と結合しやすいとされています。米テキサス大学オースティン校の研究グループは、ウイルスのスパイクたんぱく質がACE2に結合する強さは、SARSウイルスの少なくとも10倍になることを示しています。
(2020年5月11日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)