国立成育医療研究センターは、人のES細胞(胚性幹細胞)からつくった肝細胞を、重い肝臓病の赤ちゃんに移植する臨床試験(治験)を実施しました。移植は成功し、容体は安定しているとされています。人の病気にES細胞が使われるのは国内で初めてです。ES細胞からつくった肝細胞の移植は世界初です。
赤ちゃんは、生まれつき肝臓の酵素が欠け、有毒なアンモニアを分解できない尿素サイクル異常症の一つであるシトルリン血症1型の患者です。血中のアンモニア濃度が上がると、脳に後遺症が残ったり、命を落としたりします。53万人に1人の遺伝性の難病で、国内の患者は推計で100人未満とされています。
治療には肝臓移植が必要となります。安全面から体重6キロ(生後3~5カ月)以上になるまで移植は難しいため、肝臓移植が可能になるまでの橋渡しとして、肝臓のはたらきを高めるため、生後6日目にES細胞からつくった1億9千万個の肝細胞を2日間に分けて腹部に注入して移植しました。一度退院した後、生後半年ほどで父親からの生体肝移植を受けました。同センターでは、この治療の有効性と安全性の確認のため、2022年までに計5人への移植をめざしています。
(2020年5月21日 日本経済新聞)
ES細胞はiPS細胞に比べ、細胞の質が安定しており、狙った組織や臓器の細胞にしやすいとされています。しかし、他人の細胞からつくるため拒絶反応があり、免疫抑制剤の服用などが必要になります。iPS細胞は自分の細胞からつくることもでき、特殊な免疫の型を持つ人からつくれば、拒絶反応が起きにくいiPS細胞を備蓄できるなどの利点もあります。しかし、わが国においては、iPS細胞による再生医療への期待が高く、研究も予算も集中しすぎているとの批判もあります。海外においては、ES細胞が臨床応用される研究が多く実施されています。
(2020年5月21日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)