日本のオンライン診療は、これまで規制の壁が厚く、なかなか進みませんでした。政治力の強い開業医らの業界団体である日本医師会が、問診と視診だけでは危険であると主張してきました。保険適用は、糖尿病や高血圧、慢性頭痛などの再診に限られ、最近まで約30分以内に対面診察可能な距離に患者がいることという厳しい条件が付いていました。この壁を土台から揺るがしたのが、新型コロナウイルスの蔓延です。4月10日から、感染収束まで病気の種類を問わず初診から解禁されました。
首相も、オンライン診療など社会のあらゆる分野で遠隔対応を一気に進め、未来を先取りするような新たな日常をつくり上げたいと述べています。規制緩和の恒久化に向けた議論が始まり、年内をめどに具体策がまとまると思われます。米国では、高齢者向け公的保険であるメディケアや民間保険で、オンライン診療の適用範囲が広がり、サービス利用が急増した経緯があります。日本は、医師が都心に集中する医師偏在の問題を抱えており、自宅から移動できない高齢患者も多いだけに、コロナ後の医療の新常態になる可能性があります。
(2020年5月27日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)