コロナ禍は経済の姿をすっかり変えてしまっています。既に起きたショックの大きさとその性格を見ると、単なる需要の変化や個別企業の盛衰ではすまない状況に陥っています。今の時点で目につくのは、政府による介入の規模の圧倒的な巨大さです。各国のGDPの減少は著しいものがありますが、日本を含む他の主要国でも、政府支出は膨らんでいます。所得を失った人への手当に加え、企業への融資や資本注入が大きくなっています。中央銀行も巨額の資金供給で市場と財政を支えています。今や資本主義社会の経済は、民の力ではなく、どの国も政府丸抱えとなっています。
金融危機は行き過ぎた投融資が招いた面が大きいのに対し、今回のコロナ禍は経済の外から来ます。大企業や経営者の行動が直接の原因ではありません。市場経済が危機に対応しきれず、お手上げの姿をさらけ出しています。生命と生活を守るためには、政府や社会の強い支えが必要となってきます。しかも、ウイルスの危機は万人を襲いますが、それによる経済危機の痛みは、失業者ら弱者に集中することになってしまいます。
感染拡大の波は、中国から欧米に広がり、新興国や途上国で深刻になっています。貿易がもたらした富の大きさや、生産体制の国際分業の深まりを見れば、グローバル化に対する極端な逆行は、どの国にとっても得策ではありません。世界全体でコロナ禍に打ち勝つことが大切です。一部の国だけの回復はあり得ないことを、このコロナ禍は教えてくれています。
(2020年6月1日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)