新型コロナウイルスに感染した子どもで、発熱や発疹、腹痛などを患う川崎病に似た症状になったとの報告が欧米で相次いでいます。川崎病は、日本人医師が半世紀前に発見した病気で、日本や中国などアジア人に多くみられます。川崎病は、血管が炎症を起こし、全身に様々な症状が起こる病気です。発熱や目の充血、発疹、手足の皮膚の変色のほか、首のリンパ節が腫れたりします。心臓の筋肉へ栄養を運ぶ冠動脈にこぶができることもあり、将来心筋梗塞のリスクが高まることがあります。5歳未満の子どもが多く、1歳前後に発症しやすいと考えられています。高熱が3~4日続いた後に発疹や充血が生じると、川崎病の可能性があります。治療は、抗体と呼ぶ免疫の役割を持つたんぱく質や炎症を抑えるアスピリンを投与します。
5月4日、ニューヨーク市内の病院で、川崎病に似た症状の子どもが15例確認されたとの報道がありました。15人中10人は新型コロナウイルスに感染していました。6月1日時点で、ニューヨーク州全体で同様の症状の子どもは、200人弱報告されています。英国でも患者が見つかっています。
新型コロナウイルスの感染で起きる川崎病に似た症状も、免疫系の細胞の暴走によって全身で炎症が起こります。しかし、欧米で報告される症状は5歳以上の子どもに多く、心臓の障害が多いなど通常のわが国で発見される川崎病とは少し異なっています。欧米の子どもは、重症型の川崎病ショック症候群(KDSS)の可能性が否定できません。KDSSは国内の患者は少なく、欧米で多くみられます。これは新型コロナウイルスが流行する前から知られていた事実です。
免疫にかかわる遺伝子は、人種や地域ごとに異なる変異があります。新型コロナウイルスに感染した人でも、欧米とアジアで重症化に違いがみられています。今回相次いで報告された川崎病に似た症状の原因解明が進めば、新型コロナウイルスの感染で起きる重症化などのメカニズムが明らかになるかもしれません。
(2020年6月4日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)