新型コロナウイルス感染症が世界に広がる中、日本を含むアジア地域の人口当たり死者数は、欧米に比べ非常に少ないままです。生活習慣や文化、医療体制の差だけでは、最大100倍の差は説明しにくくなっています。今最も有力なのは、遺伝子によって免疫反応に違いが生じているとの仮説です。免疫反応をつかさどるHLA(ヒト白血球抗原)が、重症患者と無症状患者で異なり、重症患者特有の遺伝子があるのではと考えられています。現在、重症、中軽症、無症状各200人の感染者の血液を集め、全ゲノムを解析されています。
次が結核の予防ワクチンであるBCG説です。世界で比較すると接種している国はしていない国より死者数が少ない傾向があります。しかも、結核蔓延国は接種国より一段と死者数が少なくなっています。平均寿命や高齢化率、人口密度、肥満率、病床数、喫煙率など結果に影響を与える恐れがある因子を除いて解析しても、接種国の死亡率が低い傾向は変わらないとされています。しかし、強い相関関係があることを示すだけで、因果関係があることを示すデータではないとされています。
最後が交差免疫説です。過去に似たウイルスに感染して出来た免疫が、新型コロナも排除する仕組みが作用しているとする説です。風邪を引き起こす一般的なコロナウイルスと新型コロナは、塩基配列のほぼ半分が同じです。コロナウイルスは絶えず進化し、日本にも流入しています。そのため新型コロナへの抵抗力を持っている人が一定数いて、重症化率の抑制につながっているのではないかと考えられています。
アジアの方が肥満や生活習慣病の程度が欧米より低く、これも重症者の数を抑え込む因子の一つかもしれません。一つが決定的に重要というより、交差免疫、BCG、遺伝子などの因子が相互補完的に働き、重症化率を大きく押し下げていると考えられています。
(2020年6月27日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)