国内では、新たに年間約1万人が子宮頸がんにかかり、約2,800人が死亡しています。子宮頸がんの始まりは、性交渉によるHPV感染です。一部で感染が続き、細胞が異常な形になる前がん病変になり、さらにその一部が進行すると、がんになります。国内で認められたワクチンは、子宮頸がんを招くHPV感染の約70%を防ぐことができますが、感染後や前がん病変の治療効果はありません。
HPVワクチンは、2013年4月より定期接種になっています。小学6年~高校1年の女性は、全3回、原則無料で受けられます。当初、市区町村が、対象者に、手紙で接種を呼びかけていましたが、ほどなくして、痛みや運動障害など接種後の重い症状が大きく注目されるようになり、国は2013年6月、専門家の意見も踏まえて、積極的勧奨を休止しました。症状を訴える女性たちは、国や製薬会社に損害賠償を求める裁判を起こし、係争中です。
勧奨休止や裁判などの影響で、接種率1%を切っています。自治体からお知らせが無く、定期接種から外れたと勘違いしている人も多くなっています。定期接種を検討する機会を逃す事態を防ぐために、千葉県いすみ市や岡山県など、対象者に情報提供を始めている自治体もあります。しかし、現在も定期接種のままであり、自治体としては対象年齢の女性には知らせる義務があります。
現在新たな9価ワクチンであるシルガード9の製造販売承認の手続きが進んでいます。予防効果が高く、既に約80か国が承認しています。現在、欧米ではHPV関連がんの予防のため、男性にも接種している国々も増えています。日本は、接種率も低迷し、子宮頸がん対策では後れをとっていますが、先ずは、自治体や医療者が、定期接種の対象者に、ワクチンを打つかどうかの判断材料となる適切な情報を届けることが大切です。
(2020年7月19日 読売新聞)
(吉村 やすのり)