世界では、1,600万人以上にも及ぶ人がこのウイルスに罹患し、65万人もの人が亡くなっています。このウイルスに感染しても無症状や軽症の人が多いのですが、1~2割の人が重症化します。発症後、短期間で死亡するような重症例も少なからずみられています。死亡率は国によって違いはありますが、感染者の4%前後が死の転帰を辿っています。もともと免疫力の基礎疾患のある方や高齢者がサイトカインストームを起こし、重症化しやすいとされていますが、なぜ重症化するかについてはわかっていません。新型コロナウイルスは、このような2つの顔を持ったウイルスです。
奇怪とも思われるウイルスは、ヒトのウイルス対応にもさまざまな違いをもたらしています。ウイルスを過大評価する人たちは、7月に入り新規感染者数が増加すると、市中感染の拡大から第2波の到来とし、できるかぎり多くの人のPCR検査を実施し、陽性者を隔離し、感染拡大を抑え、医療崩壊を防ぐことが大切であることを強調します。経済活動の再開を急ぎ過ぎて感染が拡大すれば、消費や投資が萎縮することになって、結局経済の足を引っ張ることになってしまいます。
一方、過小評価をする人達は、このウイルス感染はほとんどの人が無症状や軽症であることから、ただの風邪であり、必要以上の不安を煽ることなく、経済活動を優先させるべきだとしています。このウイルスで死亡した人はわが国では1,000人余りであり、経済不況でさらに多くの自殺者が増えることを危惧しています。PCR検査の精度も5~7割で正確でないことより、無症状の人にあまねく実施しても意味がないとしています。このようにこのウイルスは、感染症として2つの顔を持っていると同時に、対応する人の考え方にも変化をもたらしています。
これまでわが国は、感染者の存在を見つけ、陽性者を隔離し、濃厚接触者を特定してその拡大を防いできました。症状があり疑いのある人にPCR検査を実施し、陽性者と濃厚接触の可能性のある人にPCR検査を拡大してきました。諸外国のように希望者に対し、広くPCR検査を実施してきませんでした。PCR検査を普及させても感染の拡大を防げていないのは、アメリカやイギリスなど欧米の例を見ても明らかです。PCR検査の精度や経済的負担を考えれば、広くあまねく国民を検査するのではなく、高齢者施設や医療機関など特定の機関で必要度の高い人々に、実施されるのが良いと思われます。クラスターが発生すると問題が多いと考えられる機関で優先的に実施されるべきです。今後海外からの渡航者が増えてくると思われますが、入国管理事務所などのPCR検査体制の充実は必須です。
(吉村 やすのり)