ワクチンの開発と製造の企業間分業

新型コロナウイルスのワクチンの大量供給のため、開発と製造の企業間分業が進んでいます。ワクチンは、基礎研究から製剤化までを製薬会社が一貫して進めるいわゆる垂直統合型の代表的な医薬品でした。ウイルス培養や原液の状況、容器に充填する作業などは、規制当局の厳格な品質チェックを受けなければなりません。製薬企業は、品質管理に加え、毎年の需要に合わせて供給量を調整するなど生産体制そのものにノウハウがあるからです。
しかし、新型コロナ向けのワクチンは、開発と生産を異なる企業が担当する水平分業型が進んでいます。未知のウイルスを扱うため、既存のワクチン技術を転用することは難しく、新たな増産設備などが必要となります。この水平分業型においては、製薬会社にとって、需要が急増するコロナワクチンの開発スピードが高まる利点があります。受託企業に量産体制構築を任せ、治験に注力することで数億から数十億回分のワクチンを供給する体制を素早く構築できます。化学などの業界でエンジニアリング技術を磨いてきた企業にとっては、ワクチンの受託製造は技術を生かす好機となります。
この水平分業は、半導体や電子機器といった産業で活用されてきました。医薬品でも研究開発の難易度が年々高まっており、新興企業を中心に取り入れる動きが広がっています。しかし、ワクチンは、特殊な培養設備などが必要で、急な生産能力の変更への対応は困難です。自社生産であれば、製造中の品目変更などで対応ができますが、委託先のメーカーは常に複数社に複数の製品をつくっています。人手や設備、契約の問題から機動的に生産体制を変えにくいところがあります。

(2020年7月29日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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