男女平等を阻む壁
この5年で女性の参画は進んでおり、女性就業者は3千万人を超えています。女性労働力率が、結婚・出産期に低下し、復職で回復するM字カーブも解消しつつあります。管理的職業従事者に占める割合も高まり、全上場企業の役員比率は2014年の2.1%から2019年には5.2%に上昇しています。しかし、諸外国との比較ではなお見劣りしています。そのことが経済分野でのジェンダー平等の世界ランキングを下げる結果となっています。管理的職業従事者の男女比、特に上場企業の女性役員比率では、欧州主要国との間に大きく水をあけられています。役員比率に強制力が強いクオータ(割当制)を課す国が多くみられます。
欧州30カ国比較調査研究によれば、厳格な罰則を課すクオータが女性役員比率を増やすには最も効果的と考えられています。しかし、クオータがなくても、コーポレートガバナンスコード(CGC:企業統治指針)ほかの自主規制でも、女性役員比率が30%まで向上している国も見られます。第5次男女共同参画基本計画においては、議員活動と家庭生活の両立の難しさ、ハラスメントの存在、主たる稼ぎ手は男性という古い固定的な性別役割分担意識が、依然として男女平等を阻む壁として挙げられています。クオータは万能ではありません。
女性は能力的に劣るという偏見の下で、採用や昇進で不利益を被ることを女性のペナルティーと呼びます。役員に先行的に女性を増やせば、その下で次第に女性の不利益が解消され、ジェンダー平等の達成につながります。これが役員クオータによるトリクルダウン(浸透)効果です。わが国においても、少なくとも政党や省庁にクオータ制の導入は必要です。
(2020年7月29日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)