新型コロナウイルスの感染拡大で、少子化問題は置き去りにされてしまっています。政府の7月の骨太の方針では、少子化が主要なテーマになるはずでした。1人の女性が一生に生む子どもの平均数を示す2019年の合計特殊出生率は、1.36と4年連続で低下し、12年ぶりの低水準となっています。出生数は予想より2年早く90万人を割り込み、86万ショックという言葉が使われています。今後はコロナ禍での子育て不安から、少子化はさらに加速することが予想されます。
コロナ禍での子どもの発達や収入減などへの強い懸念が、保護者のみならず子どものストレスを増しています。在宅勤務が増え、テレワークと自宅での子育ての両立の難しさを訴える声も目立っています。在宅勤務などのコロナ対応が、親のストレスの増加や子育てのリスクにならないようにバランスをとる必要があります。子育て世代など一部の人にしわ寄せがいかないように、社会や企業は対応策を考えるべきです。
少子化は先進国で共通の悩みです。女性の職場進出で低下した出生率は、男女ともに仕事と家庭を両立できる環境づくりや子育て世帯への経済的な支援によって、欧州の国々では、一部の国で持ち直してきています。長らく日本とともに出生率の下位グループにいたドイツも、父親の育児休業の取得や働き方改革、保育の保障などの政策により、回復傾向にあります。
1989年には、1966年の丙午の年の出生率を下回り、1.57ショックと呼ばれ、国も少子化対策に力を入れるようになりました。しかし、その後、バブル経済が崩壊、政府は経済や高齢化問題に注力し、大胆な少子化対策を出せないまま30年が経過してしまいました。孤独な子育て、子育てと仕事の両立の難しさ、不安定な雇用など、コロナ禍で露呈した不安は、今後の少子化対策の大きな課題です。現代の少子化は、政治が子育て世代やこれから家族をつくる若い世代の不安を解消できなかった結果です。この失われた30年を取り戻すためには、一刻の猶予もありません。
(吉村 やすのり)