世界の電力需要はコロナ禍で一時的に落ち込んでいますが、1980年以降一貫して年率2.6~3.5%程度で増えています。世界の電力需要は、1990年代の10兆kw時から、2019年には27兆kw時と2.7倍になっています。特にアジア諸国は4倍以上に増えています。その大部分は石炭火力で、この傾向は今後も続くと予測されています。
世界的には、4割弱の電力が石炭火力による供給されています。2030年までに石炭火力を廃止すると公約したフランス、イタリア、英国など欧州10カ国は、石炭火力比率が極めて少なくなっています。安定供給の基盤は、常に一定量の電力を供給するベース電源であり、世界的には石炭と原子力が主流となっています。工業化を目指す新興国などでは、安価なベース電源があって初めて安定供給が達成されます。しかし、石炭火力に関しては多くのCO2を排出するため、世界でその評価は二分されています。欧州などの多くは、脱炭素化を掲げて、完全撤廃に向かう動きをしているのに対し、石炭比率の高いインドなどアジア諸国では、安価な石炭火力を優先しています。
脱炭素化は、地球全体の問題であり、各国が脱炭素化に向けて国益や国情に応じた戦略を構築すべきです。再生可能エネルギーか原子力かどうかの二者択一の思考ではなく、脱炭素社会に向けて、あらゆる電源オプションに対する革新的なイノベーションを率先して展開すべきです。
(2020年8月18日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)