わが国においては、コンピューター断層撮影装置(CT)検査など放射線を使った医療行為による被曝量が世界で最も高い水準にあります。特に小児は成人よりも放射線の影響を数倍受けやすく、がんや発育上のリスクが高まります。医療被曝を減らすため、放射線量を抑えた検査法や超音波を使うエコー検査の活用など取り組みが広がっています。環境省によれば、日本の年間の医療被曝量は3.87ミリシーベルトで、世界平均の0.6ミリシーベルトを大きく上回っています。CTが普及し、高度な医療が提供されていることが影響しています。
日本小児放射線学会などが作成した小児CTガイドラインによれば、小児は放射線に対する感受性が成人の数倍高くなっています。体格も小さく、成人と同様の撮影条件では、臓器あたりの被曝量が2~5倍になります。WHOも被曝時の年齢が低いほど、生涯のがん発生リスクが増加するとして注意を呼びかけています。
被曝を避けるために、どんな疾患でもCT検査より先に、まずエコー検査を第1の選択肢とすべきです。日本超音波学会に所属する医師のうち、小児科医はわずか1.4%で、全医師に占める小児科医の割合は2018年時点で5.6%で、小児科医の割合は低率です。開業医を含め、全ての小児科医が超音波医療を習得するのが望ましいと考えられています。
CTの線量については、診断に影響のない範囲で、被曝をできる限り低くするのが国際的な共通認識です。CT検査は線量を多くするほど詳細な画像を得られますが、検査を行うメリットが被曝のリスクを上回ることが前提です。東京大学病院では、先天性心疾患などの診断のため心臓CT検査を行う際、体積から小児検査に必要な線量を計算し、低線量の目安とされる1~3ミリシーベルトをさらに下回る0.3ミリシーベルトで検査しています。小児の心臓CT検査では、施設によって放射線量に最大70倍以上の格差がみられます。
(2020年9月21日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)