社会保障制度改革への道

2019年9月に全世代型社会保障検討会議が発足し、アベノミクス下での社会保障制度改革がスタートを切りました。改革の2本柱として、第1は、人生100年時代を視野に入れて、高齢者の就労促進などっで社会保障の支え手を増やすことであり、第2は、経済力があれば、年齢を問わず相応の負担をしてもらう応能負担を強めることです。
支え手を増やす方策としては、定年など雇用制度の見直しや、年金制度改革を通じて70歳までの就業機会を高めることが目指されました。応能負担を強めるには、現行では原則1割、現役並み所得のある人のみは3割となっている高齢者医療費の窓口負担に、2割負担区分を設けるという方針が盛り込まれました。
支え手を増やす方策については、実態のほうが先に進んでいます。アベノミクスが始まる1年前の2012年を底にして明確に上昇に転じています。しかも上昇をけん引する主役は、意外にも65歳以上の高齢層です。しかし、問題は応能負担のほうです。高齢者医療費の窓口負担については、政府内でまだ調整がついていません。しかし団塊の世代の後期高齢者入りが近い状況にあり、それまでに高齢者医療費の窓口負担のあり方を始めとして、応能負担の観点からの改革を急がなければなりません。
さらに貧困の高齢化にも備える必要があります。いわゆる就職氷河期世代もそう遠くない将来に高齢者の仲間入りをします。この世代は、就職期以来、不安定な就業・所得環境に置かれています。高齢になると、低年金・無年金で生活苦に直面する可能性が高く、現行の年金・生活保護制度は貧困の高齢化を想定していません。問題が顕在化する前に、対策を講じておくべきです。

(2020年9月29日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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