新型コロナの軽症者の多い理由

新型コロナウイルスの第2波を迎えた8月の致死率は0.9%であり、5月に比べ8分の1に下がっています。検査の拡充で軽症や無症状の人が多く見つかり、分母となる感染者数が増えたことが大きな要因と思われます。厚生労働省の診療の手引には、新型コロナに感染して発症した人の80%は軽症のまま治ると示されています。
感染症は、無症状から重篤まで幅があるのがふつうです。どちらになりやすいかは、ウイルスの特性や感染した人の状態など、様々な要素が関わっています。過去に感染したウイルスを覚え、再び感染したら速やかに攻撃を始める免疫の働きが関与しています。主役となるT細胞というリンパ球は、ウイルスに感染した細胞を殺し、ウイルスが増えるのを抑える抗体をつくるよう指示します。しかし、最初の感染時は、T細胞や抗体が攻撃力を高めるまでに時間がかかります。
最近の研究で、感染していなくても、新型コロナに反応するT細胞を持っている人が一定の割合でいることが分かってきています。この理由として、過去にできた免疫が似ているウイルスにも反応する交差免疫という現象が考えられています。過去に風邪をひいた時にできたT細胞や抗体が、交差反応を示した可能性があります。これが、新型コロナに感染しても、非常に軽い症状や無症状ですむことに影響しているかもしれません。
一方、交差反応する抗体が、かえってウイルスを細胞に感染させやすくしたり、異常な免疫応答を引き起こしたりする可能性もあります。同じ交差反応により、新型コロナが重症化することも否定できません。新型コロナに交差反応を示すT細胞や抗体が試験管内で見つかっただけで、体内でどう働くのかはまだ不明のままです。

(2020年9月27日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)

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