ゲノム編集の開発にノーベル化学賞

今年のノーベル化学賞は、ゲノム編集手法の開発で、米カリフォルニア大学バークレー校のジェニファー・ダウドナ教授と、独マックスプランク感染生物学研究所のエマニュエル・シャルパンティエ所長に決まりました。2012年に発表したクリスパー・キャス9は、生物のDNAを狙った場所で切断でき、従来より簡単で精度も高く、生命科学の研究に欠かせない実験手法になっています。

この技術は、病気の治療や農作物の品種改良など生命科学全般で広く応用されるようになってきています。クリスパー・キャス9は農水産物の品種改良で成果をあげています。一方、人に使用したときの安全性は不明確です。また、外見や能力を操作するデザイナーベビーにつながる懸念もあります。2018年には、中国の研究者がエイズの感染予防を目的に、人の受精卵の遺伝情報を改変して双子が生まれたと発表しました。ゲノム編集技術に携わる世界の研究者らが激しく抗議し、中国政府が発表した研究者を処罰するなど波紋が広がりました。
ゲノム編集技術は画期的ではありますが、安全性が確立されていない技術です。DNAを切断する際、狙った場所と異なる部位が切れてしまう現象が確認されており、医療応用の際のハードルになっています。中国の受精卵の改変が非難を受けたのも意図せぬ遺伝子の改変が子孫に遺伝する可能性があるためです。しかし、将来的にはゲノム編集は遺伝性の病気の根本的な治療法になるとの期待もあります。切断部位の精度を高めるなどのゲノム編集を成熟させる技術開発だけでなく、技術を明確なルールの下で使うための社会全体の議論が必要です。日本国内でも臨床応用に関する法規制の検討が進んでいます。

(2020年10月8日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)

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