博士号取得者は研究力の源泉です。政府は、1996~2000年度の第1期科学技術基本計画で、研究現場の活性化を目指し、ポスドク1万人を打ち出しました。博士号取得者と任期雇用の若手研究者を増やしました。しかし、国立大学法人化のあおりで常勤ポストは増えず、企業による博士号取得者採用も広まりませんでした。文部科学省の調査によれば、全国のポスドクは1万5,591人で、この10年で13%減っています。博士号取得者は、2006年度をピークに減少傾向にあります。博士号取得者数で、海外との差が拡大しています。
また、大学では常勤職員が高齢化しています。1990年代に3割を超えていた40歳未満の教員の割合は、2016年度に23.3%まで下がっています。逆に50歳以上は46.5%で、上昇が続いています。政府は大学に若手登用を働きかけてきましたが、運営費交付金が減り、ポストを増やせない大学側の事情もあり、改善していません。大学の定年延長で、新陳代謝が進みにくくなった面もあります。
民間で活躍する若手を増やすことも急務です。日本の企業は欧米に比べ、博士号取得者の採用に消極的でした。次世代の研究を担う若手が日本にいなくなる事態を防ぐため、産学官による環境整備が求められています。
(2020年10月19日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)