細胞を培養して、ミリ単位のミニ臓器をつくる技術が広がっています。本物の臓器に近い立体構造や機能の一部を再現できるようになり、オルガノイドとも呼ばれて注目を集めています。臓器の一部を人工的につくるミニ臓器は、ここ10年ほどの間に脳や肺、腎臓、肝臓など多岐にわたる臓器で技術が確立してきています。本物に近い構造や機能を持つミニ臓器も現れ、臓器(organ)と似たようなもの(oid)を組み合わせて、オルガノイド(organoid)と呼ばれています。
研究が発展した大きなきっかけは、受精卵からつくるES細胞や、皮膚や血液などの体細胞からつくるiPS細胞の登場です。かつてミニ臓器は、体内に元々あって様々な細胞に変化できる幹細胞からつくることが多かったのですが、ES細胞やiPS細胞は、体にある幹細胞より増殖力が旺盛でより多様な細胞に変化することができます。
ミニ臓器を活用できる分野は幅広く、受精卵から胎児の臓器ができる過程を調べる発生学の研究に貢献しています。また、遺伝病の患者の組織からつくったiPS細胞をミニ臓器にすれば、病気を再現してメカニズムを調べられます。さらに、薬の毒性を調べる創薬や、体内に移植する再生医療にも役立ちます。再生医療の究極の目標は、病気などの臓器を、新たにつくった臓器と取り換えることにあります。しかし、現時点で作製できるミニ臓器は数㎜が限界です。
(2020年10月26日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)