いわゆる少子化対策が始まったのは1990年のことです。前年、1人の女性が産む子どもの数を示す合計特殊出生率が、1966年丙午の年の出生率の1.58を下回り、過去最低の1.57になったのがきっかけであり、1.57ショックと呼ばれました。以来政府は、様々な少子化対策を講じてきましたが、去年の出生率は1.36とさらに低くなっており、12年ぶりの低水準となっています。出生数は予想より2年早く90万人を割り込み、86万ショックという言葉が使われています。今後はコロナ禍での子育て不安から、少子化はさらに加速することが予想されます。
孤独な子育て、子育てと仕事の両立の難しさ、不安定な雇用など、コロナ禍で露呈した不安の除去は、今後の少子化対策の大きな課題です。これさえすれば解決できるといった特効薬はありません。若いカップルにしてみれば、少子化を解消するために子どもを持とうとは考えないでしょう。若い世代の人々が安心して暮らせる社会、将来に希望を持てる社会でなければ、子どもを持ちたいと思われないでしょう。その結果が、現在の出生率や出生数の低さに表れています。大切なのは、心健やかに産み、安心して子育てができるような社会、若い世代が子どもを作り育てたいと思う社会の形成を目指さなければなりません。
こうした少子化の危機を乗り切るためには、従来からの雇用の安定、働き方改革、子育て支援などの政策に加えて、ポストコロナでは多様性を認める社会に変貌を遂げなければなりません。日本で婚外子は全体の2%にすぎず、婚姻関係になければ子どもが産めない状況にあります。望んで結婚せず子どもを産みたい人や、事実婚や性的少数者カップルらの子どもを産んで育てたいという希望は、婚姻にかかわらず叶えられるべきです。多様性を認める社会ではないことが、わが国の出生率の低さに表れています。女性のReproductive Rightsが認められるような、そんな社会を目指さなければなりません。
コロナの流行は全ての企業に働き方や仕事の進め方のニューノーマルを迫っています。とりわけ新型コロナの影響で出生前後の母親の負担や不安は高まっています。そのためにも、男性の育児参加や育休取得を強く推し進める必要があります。子育て世代などの一部の人々にしわ寄せがいかないように、社会や企業は対応策を考えるべきです。厚生労働省がまとめた妊娠届けの件数は、1~7月に大きく減少しています。少子化がさらに加速し、2021年の出生数は70万台になることが予想されています。少子化は社会を映す鏡であり、社会の歪みの結果です。ともすれば、少子化は若い世代の問題と捉えられがちですが、社会がどれだけ変われるかにかかっています。
(吉村 やすのり)