接種率が低い子宮頸がんを防ぐHPVワクチンの有効性を示す研究結果が、相次いで報告されています。スウェーデンのカロリンスカ研究所は、リスクが最大9割減少すると発表しています。大阪大学は、日本の接種率の低下で4千人以上の死者が増加すると推計しています。以前であればこうした発表があっても、マスコミはその結果を報道しませんでした。しかし、最近、HPVワクチンには子宮頸がんの予防効果があるとする科学的なエビデンスが示され、国民がワクチンの有用性について知る機会が増えるようになってきています。
厚生労働省にも変化がみられています。7月に製薬会社MSDの新たなHPVワクチンの製造販売を承認しました。申請は2015年で、異例の長期審査となりましたが、わが国においても9価ワクチンが使用できるようになります。また10月にはHPVワクチンのリーフレットを改訂し、自治体を通じて接種対象に個別に送付すると決めました。積極的勧奨の再開ではありませんが、少しずつ変化がみられるようになってきています。厚労省内にも、積極的勧奨を再開すべきだとの意見はありますが、健康被害を受けたとして国や製薬会社を訴える訴訟も起きており、なお慎重な姿勢は崩しておりません。
HPVワクチンは、日本では予防接種法に基づき、小学6年~高校1年相当の女子は公費で接種できます。しかし、厚労省は、2013年6月から対象者に接種を呼びかける積極的勧奨を中止しています。これが接種率を下げる大きな要因となっています。WHOの推計によれば、2019年に15歳の女性のうちHPVワクチンの接種を完了した割合は英国やオーストラリアで8割、米国で55%です。しかし日本は突出して低く0.3%です。しかし、全国の産婦人科医や小児科医の努力により、地域によっては、少しずつ接種率の上昇がみられるようになってきています。接種率向上には、保護者をはじめ国民全体の理解が不可欠であり、そのための教育が必要となります。
(2020年11月16日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)