認知症は脳の神経細胞が損傷したり、働きが悪くなったりすることで認知機能が低下し、日常生活に支障をきたした状態を言います。高齢者に多い進行性の病気ですが、65歳未満で発症すると、若年性認知症と呼ばれます。働き盛りで一家の生計を支えている人が多く、家族への影響や経済的ダメージは計り知れないものがあります。
若年性認知症の国内有病者数は推計3万7,800人で、アルツハイマー型認知症、血管性認知症、前頭側頭型認知症、レビー小体型認知症などに分類されます。最も多いのはアルツハイマー型で52.6%、次いで血管性17.1%です。血管性認知症が脳卒中の後遺症であるのに対し、アルツハイマー型認知症は原因不明です。
アルツハイマー型認知症の若年性認知症は特に進行が速く、重症化しやすいとされています。症状としてまず現れるのは物忘れで、初期は新しい記憶から薄れてきます。やがて言葉が出てこない、よく知っている道で迷う、着替えができない、計算ができない、家電製品の使い方がわからない、好きだった趣味に興味がなくなるといった様々な症状が現れます。若年性認知症の問題点は、異変があっても本人や周囲が認知症と思わず、発見が遅れがちなることです。
認知症の多くは今のところ根治できませんが、早期発見・早期治療で進行を遅らせることはできます。アルツハイマー病を引き起こすアミロイドβの脳への沈着は、症状が出る20年ほど前から始まっています。なるべく早い段階で、アミロイドβの沈着を調べて認知症のリスクを判定し、予防・治療に取り組めば、発症が大幅に遅れる可能性があります。糖尿病、高血圧、脂質異常症は、アルツハイマー病や脳卒中の発症リスクを高めます。
こうした生活習慣病の予防・改善は、認知症予防にもつながります。そのためには、まず日ごろの生活習慣を見直し、バランスの良い食事、適度な運動、十分な睡眠を心がけることが大切です。例え若年性認知症になっても、社会的活動を続けることが必要です。人と交流し、やりがいを持つことで、残っている脳の機能を長く維持できます。医療だけでなく、就労支援や介護する家族のサポートなど、包括的なケアが必要となります。
(2020年11月14日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)