2011年に胎児の出生前診断で羊水検査を受けた夫婦が、誤った診断結果を告げられ、人工妊娠中絶の選択権を奪われたとして、実施した医師に損害賠償を求めていた。地裁は、「羊水検査で染色体異常であったという結果を正確に告知していれば、中絶するかしないかの選択をする時間が与えられた」として、医師側に賠償命令の判決を下した。
医師側が性格な情報を伝えなかったことは大きな過失であることは紛れもない事実である。しかし、一方でクライエントもダウン症と正確な告知をされていれば中絶していた可能性が高かった。出生後に亡くなった赤ちゃんの死亡慰謝料の請求とともに裁判をおこしているのはいかがなものか? 誤った告知と生まれてくる子どもの権利とは全く次元の違う問題であり、こうした裁判がおこることは大変悲しい。生後まもなく死亡した赤ちゃんの御冥福を心からお祈りしたい。この裁判は今後の出生前診断のあり方を考える上で、重要な糸口になるかもしれない。
(2014年6月6日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)