社会的養育の必要性

様々な事情で生みの親が育てられない子どもを保護し、児童養護施設や里親の家庭などで育てることを社会的養育と呼びます。虐待などを未然に防ぐためにも社会全体で育て、支える仕組みです。日本では、こうした子どもは全国に約4万5,000人(2018年度)もいます。しかし、その大半が施設で暮らしており、里親の家庭などで暮らす子どもの割合(里親委託率)は、2割程度にとどまっています。
一方、欧米では、保護された子どものうち里親家庭などで暮らす子の割合は、オーストラリアが約9割、米国で約8割にのぼっています。英国やドイツでも、半数超が家庭で暮らしています。欧米では、子どもの発達にとって、幼少期から家庭で特定の大人に育てられる経験が重要という考え方が早くから確立しており、施設から家庭への転換が進んでいます。こうした考え方は、国連総会で1989年に採択された子どもの権利条約にも反映されています。今や世界的にみて、保護が必要な子も家庭で養育するのを優先する考えが主流となっています。
日本でも、2000年代に入って施設の小規模化が本格化し、家庭に近い環境作りは進んできています。2016年に成立した改正児童福祉法では、子どもが家庭で育つことを目指す家庭養育優先の原則が明確にされました。2017年には、厚生労働省の検討会が、新しい社会的養育ビジョンを策定し、保護された3歳未満の乳幼児について、概ね5年以内に里親委託率を75%以上に引き上げるなど、米国並みの高い数値目標を打ち出しています。施設は障害を持つ子のケアなど、より専門性の高い役割を担っています。
しかし、認知度不足もあり、里親になる人が少ないのが実情です。厚生労働省によれば、保護された子どもを預かっている里親は約4,400世帯で、そこで計約5,600人の子どもが暮らしています。預かる期間は、数週間ほどの短期から大人になるまでなど様々で、子ども1人あたり月9万円の手当が支給されています。国が自治体の取り組みのサポートにもっと力を入れ、子どもの最善の利益を追求できるようにする必要があります。

(2020年12月18日 読売新聞)
(吉村 やすのり)

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