わが国においては、母体保護法による人工妊娠中絶は、暴力などによる妊娠や、身体的または経済的に子どもを産み育てることができない場合に限って、22週未満であれば人工妊娠中絶を受けることができる。しかし、欧米とは異なり、胎児の異常を理由として中絶することはできない。今回の出生前診断の告知ミスを巡る訴訟で、函館地裁は医師に1,000万円の賠償金の支払いを命ずる判決を下した。今回の判決は、胎児の異常があれば中絶を選択する権利を保障したともいえる判断であると思われる。
今回の判決の是非はともかく、夫婦が訴訟を起こしたこと自体が、ダウン症を持つ人々に対する社会の目を、一層厳しいものにしてゆく可能性がある。また、胎児異常があれば中絶することもできるという、人工妊娠中絶に胎児条項を含めることもできるとの判断であったとも解釈できる。いずれにしても人工妊娠中絶に対して大きな問題を投げかけている。
(週刊現代 2014年6月21日号)
(吉村 やすのり)