原子放射線の影響に関する国連科学委員会が、東京電力福島第一原発事故の被曝による健康影響を評価した報告書を公表しています。最新の知見を反映して、福島県民らの被曝線量を再推計し、2014年の値を下方修正しています。これまで県民に被曝の影響によるがんの増加は報告されておらず、今後も、がんの増加が確認される可能性は低いと評価しています。
科学委は欧米や日本など27カ国の科学者らで構成されています。1986年のチェルノブイリ原発事故では、被曝の影響で子どもの甲状腺がんが増えたと結論づけています。
事故後1年間の甲状腺への平均被曝線量は、県全体の1歳で1.2~30ミリシーベルト、10歳は1~22ミリシーベルトと、2014年の推計値の半分以下になっています。全身への被曝線量も下方修正され、県全体の成人で、平均5.5ミリシーベルト以下となった。がんで亡くなる人が明らかに増えるとされる100ミリシーベルトを大きく下回り、県民の間で将来、健康影響が確認される可能性は低いと評価しています。
福島県が2011年6月から続ける県民健康調査では、事故時18歳以下の子らを対象にした甲状腺検査で、251人が甲状腺がんか疑いと診断されています。科学委は報告書で、被曝の影響ではなく、高感度の超音波検査によって、生涯発症しないがんを見つけた過剰診断の可能性があると指摘しています。
(2021年3月10日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)