ギグワーカーとは、インターネット経由で単発の仕事を請け負う労働者のことです。ライブハウスなどに居合わせたミュージシャンが、一度限りで演奏に参加することを意味する音楽用語のgig(ギグ)に由来します。料理宅配サービスの配達員の他に、ライドシェアの運転手や特定のプロジェクト限定でソフト開発の仕事を請け負うフリーのエンジニアなどがその典型です。
近年、欧米や中国では、企業からの仕事を個人に仲介するプラットフォームが続々勃興し、ギグワーカーの増加を後押ししています。ウーバーイーツのお膝元である米国では3千万人以上のギグワーカーがいるとの試算もあります。料理配達員のような肉体労働者だけでなく、法務や会計などの高度な専門職も珍しくありません。
日本でもホワイトカラー系のギグワーカーが急増しています。クラウドワークスなど大手仲介サイト4社の登録者の合計は、20年上半期に約100万人増えています。新型コロナウイルス禍による雇用不安に加え、テレワークの定着で可処分時間が増加したことで、副業でギグワーカーとなる人もいます。
配達員が増える一方で、労働環境の整備は今後の課題となります。料理宅配に従事するギグワーカーは、法的には独立した個人事業主との扱いです。雇用保険などは、企業に雇用されている働き手を対象とした制度で、保険料は企業と働き手が分担しています。ギグワーカーは企業に雇われていないため、その恩恵を受けられません。労働者を対象とした労働基準法からも対象外で、最低賃金制度なども適用されません。事故に遭遇した場合、通常の労災保険の適用などは原則ありません。
(2021年3月3日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)