東日本大震災の津波の影響で、東京電力福島第1原子力発電所1~3号機が炉心溶融事故を起こし、国民の原子力への信頼は地に落ちました。この10年、エネルギー政策について積極的な議論を避けてきた政府の不作為が問われています。
震災前に国内では、米国などに次いで世界で3番目に多い54基の原発が稼働可能な状態にあり、総発電量の約3割をまかなっていました。しかし、事故後、原発は事故の反省を踏まえてできた新規性基準に基づく原子力規制委員会の審査に合格しない限り、再稼働できなくなりました。2015年8月に九州電力の川内原発1号機が再稼働するまで、原発ゼロが約2年続きました。これまで規制委員会の安全審査に合格したのは、9原発16基です。発電量に占める原発の割合は、6.2%に過ぎません。
(2021年3月11日 日本経済新聞)
2018年に閣議決定されたエネルギー基本計画では、原発依存度は可能な限り低減させるとしつつも、体炭素の準国産エネルギー源として、優れた安定供給性と効率性を有するとの利点も強調しています。今後の電力需給や温暖化対策も踏まえて、2030年度に原発の割合を20~22%にする目標を掲げています。
福島第一原発事故後、日本だけでなく世界で原発の安全対策費は高騰し、安価な電源ではなくなっています。欧州を中心に世界で再生エネルギーへのシフトが進んでいます。英国やドイツでは、再生エネルギーの価格低下が進んだこともあり、2020年は総発電量の約4割を占めています。日本は、いまだ2割程度で世界に出遅れています。政府は、温暖化ガスの排出量を実質ゼロにする目標を打ち出しています。原発も再生エネルギーも、実現のために重要なカギを握ることは間違いありません。
しかし、東日本大震災後10年が経過し、被災地での原発再稼働に対しては、7割が反対しています。原子力発電は徐々にでも廃止すべきと考える人は、9割近くに達しています。こうした被災地の声に耳を傾けながら、2021年夏にも策定する次期エネルギー基本計画では、エネルギー政策の道筋を責任を明確にしたうえで示すことが求められます。
(2021年3月11日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)