戦後、日本では感染症による死者が多く出たため、1948年に予防接種法を制定し、12疾病について罰則付きで接種を義務づけました。しかし、直後にジフテリアの予防接種を受けた子どもが80人以上亡くなってしまいました。その後も種痘の予防接種で健康被害が相次ぎ、訴訟で国に損害賠償命令が下される事態も起きました。
こうした状況を受け、国は1994年に予防接種法を改正し、接種を国民の義務から努力義務に緩和しています。国の消極姿勢を背景に、製薬会社などでのワクチンの新規開発は著しく停滞してしまいました。リスクとベネフィットを考え、ベネフィットが上回れば、海外ではワクチン接種に積極的な考えが多数を占めています。しかし日本では、リスクばかりが強調される結果、ワクチン接種には消極的な姿勢が見られており、現在のワクチンギャップにつながっています。
接種が始まった新型コロナのワクチンも、効果がどれだけ続くのかがまだ分かっていません。インフルエンザのように、毎年接種が必要になる可能性もあり、欧米諸国は安定的な供給体制の整備を進めています。世界でワクチン争奪戦が激化し、囲い込みにより供給が滞る事態も懸念されています。
新型コロナワクチンは、これまでにファイザーをはじめ、米国と英国にある3社が厚生労働省に承認申請しました。ワクチン開発はロシアや中国でも進み、供給が始まっています。しかし、国産は、医療新興企業のアンジェスと塩野義製薬が、人に投与して有効性や安全性を確かめる臨床試験を始めたものの、供給はまだ先の話です。わが国のワクチン開発力は海外に比べて劣っているとは思えませんが、こうしたワクチンに対する消極的な姿勢が、開発や接種の遅れにつながっています。
(2021年3月13日 読売新聞)
(吉村 やすのり)