同性婚の法的取り扱いが争われた訴訟の判決で、札幌地裁は、同性婚を認めていない民法などの規定が、法の下の平等を定めた憲法に違反するとの判断を下しています。同性カップルに婚姻の法的保護が与えられない現状を差別に当たると明示しており、婚姻のあり方を巡る議論に影響を与えそうです。法律婚ができない同性カップルを巡っては、これまでパートナーの法定相続人になれない、遺族年金が受給できない、緊急手術の署名ができない、職場での福利厚生を受けられないといった不利益が指摘されています。
判決理由で、性的指向について自らの意思にかかわらず決まる個人の性質で、性別、人種などと同様のものとし、婚姻によって生じる法的利益は、性的指向に関係なく等しく享有しえるものと解されるとしています。婚姻は、子の有無にかかわらず、夫婦の共同生活自体の保護も重要な目的で、同性カップルの保護を否定する理由にならないとしています。
判決では、社会の情勢の変化にも言及しています。政府機関による2018年の調査で、同性婚を認めるべきという回答が7割近くに達しています。また、約60自治体が同性カップルを認証する制度を導入しています。こうした状況をふまえ、異性婚と同性婚の格差を解消することを要望する国民意識が高まっているとしています。国内外の世論の変化を的確に捉え、社会的少数派の人権に配慮した判決といえます。多様性や許容性を後押しするものと評価できます。
同性婚を認める動きは海外が先行しています。2001年に世界で初めて同性婚を法的に認めたオランダを皮切りに、2020年5月時点で米国、英国、ドイツなど30近い国・地域が導入しています。アジアでは、2019年5月に台湾が容認しています。判決はこうした海外の動向にも触れて、同性婚を認める動きをG7参加国など先進国に多くみられると言及しています。国ごとの文化や価値観の違いを踏まえても、同性婚の法的取り扱いを検討する上で考慮すべき事情であるとしています。
(2021年3月18日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)