ワクチン接種後のアナフィラキシー

アレルギーの多くは、原因物質が体に取り込まれた時に、皮膚にじんましんが出たり鼻の粘膜で鼻炎が起きたりするなど、ある1カ所で症状が出て、通常は大事に至りません。一方、アナフィラキシーは、皮膚や粘膜だけの症状にとどまりません。腹痛や下痢、呼吸困難や血圧低下など、複数の臓器でアレルギー反応が同時に起きます。臓器への酸素供給が不足するショック状態になると、命に関わることもあります。
アナフィラキシーは、ワクチン接種でも起こります。一般的な頻度は10万人に1人ほどです。抗生物質によるものは、5千人に1人ほどなどと比べると少ないとされています。厚生労働省の人口動態調査によれば、国内では年間50~70人がアナフィラキシーで亡くなっています。
今回の新型コロナワクチンで、アナフィラキシーの原因と疑われているのは、ワクチンに含まれるポリエチレングリコール(PEG)という物質です。ファイザーなどのワクチンは、新型コロナウイルスの遺伝物質の一部を、壊れないように脂質の膜で包んでいます。PEGはこの脂質の膜に含まれています。PEGは比較的にありふれた物質で、歯磨き粉や化粧品、医薬品などに使われています。
ワクチンの成分に対してアレルギー反応を示すかどうかが問題で、食物アレルギーや花粉症の人が過剰に心配する必要はありません。別の原因によるアナフィラキシーの経験がある人も、それだけで今回の接種を避ける必要はありません。
大切なのは早期の治療です。症状が出ても、血圧を上げたり、気管を広げたりする作用があるアドレナリンをすぐに注射すれば、応急処置ができます。新型コロナワクチンの接種会場には、アドレナリンを簡単に注射できるエピペンなどが準備されています。新型コロナワクチン接種後のアナフィラキシーは、9割の人が接種後30分以内に発症しています。海外でも日本でも接種会場では、接種後15~30分ほど、体調が急変しないかを確認することになっています。

(2021年3月31日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)

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