わが国の少子化は世界に類をみないスピードで進行しています。高学歴化とともに社会で活躍する女性が増え、晩婚化から出産開始年齢が遅くなっており、少産化や未婚化も相まって少子化に拍車がかかっています。少子高齢化による人口構成の変化は、社会に大きな歪みをもたらすことになります。国は様々な子育て支援策を打ち出し、待機児童の解消や子育てと仕事の両立のための働き方改革を積極的に進めようとしています。しかしながら、社会が、そして国が子どもを育ててゆくという考え方に転換していかなければ、現在の出生率の改善を到底望むことはできません。
少子化の状況下で、生殖医療も激動の真っ只中にあります。これまで上昇基調にあったわが国の生殖補助医療の治療周期数や出生児数も、生殖年齢にある女性の減少により、ここ数年高止まりの状況にあります。今来の生殖医療は、クライエントの年齢や病態を考慮し、医療技術には様々な改良が加えられ、個別化医療として発展してきています。しかし、治療技術や科学的手法の開発には、安全性や経済性のみならず、倫理的妥当性も評価されなければなりません。生殖医療は形而上学ではなく、実践を通して学んでいく学問ではありますが、ヒトを利用した実験的医療の側面も有しており、可能なかぎりエビデンスに基づく医療が提供できるような慎重な対応が望まれます。
第三者の精子や卵子を利用した生殖補助医療で生まれた子について、20年もの歳月を経て親子法を定める民法特例法が成立しました。そこでは第三者からの精子提供による治療に同意した夫が父であり、卵子提供で出産した女性が母であることが明記されました。明治時代にできた民法は、第三者が関わる生殖医療を想定しておらず、親子関係を巡る訴訟の回避には法制化の必要性が指摘されていたことから、生まれてくる子の福祉を考える上で極めて意義深いものがあります。さらに国は、第三期がん対策推進基本計画において、がん治療に伴う生殖機能への影響など、世代に応じた問題について、医療従事者が患者に対して治療前に正確な情報提供を行い、必要に応じて適切な生殖医療を専門とする施設に紹介できるための体制を構築することを推奨しています。その一環として、小児・AYA世代のがん患者等の妊孕性温存療法研究促進事業を開始しました。このようながん・生殖医療に対する経済的支援が可能になった背景には、がん治療のみならず、生殖医療の発展に負うところがありました。
(吉村 やすのり)