これまでの受精卵の核移植は、日本では禁じられていましたが、遺伝性の難病であるミトコンドリア病の研究のためにだけ認められることになりました。父親の精子と母親の卵子が出会ってできる受精卵にある核を、第三者の受精卵や卵子に移して置きかえる技術です。核には両親の遺伝情報が入っています。
ミトコンドリアは、細胞の中でエネルギーを作り出します。ミトコンドリア病は、この働きが落ち、筋力の低下や痙攣、意識障害などが起きて亡くなることもある病気です。完全に治す方法はまだなく、国内に約500~800人の患者がいると推計されています。この病気の原因の一つは、母親から受け継ぐミトコンドリアのDNAの異常だと考えられています。受精卵から核だけを取り出して第三者の正常な受精卵や卵子に移植すれば、異常なミトコンドリアを持たない受精卵となり、病気を予防できます。移植した核によって両親の遺伝子も受け継ぐことができます。
現在わが国では、核移植した受精卵には、核が持つ両親の遺伝情報と、ミトコンドリアが持つ受精卵や卵子の提供者の女性の遺伝情報がふくまれています。つまり受精卵に3人の遺伝情報が混ざっていることになります。核移植した受精卵は研究に限って使い、母親の体に戻すのは禁じています。しかし、英国などでは、病気予防のために認められていて、日本でも今後認められる可能性があります。
(2021年5月1日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)