医療過剰時代からの脱却

社会保障費の増加の主因は、医療と介護です。高齢化が進む分だけ、医療と介護の給付が増えることは不可避です。しかし介護よりも医療に給付がより多く費やされていることが問題です。65~69歳の高齢者1人あたりに年間で、医療には約46万円費やされているのに対し、介護では約3万円に過ぎません。75~79歳では、医療には約77万円費やされているのに対し、介護では約16万円です。85~89歳でも、医療には約104万円費やされているのに対し、介護では約75万円です。
わが国においては、介護より医療の方が高コスト体質となっています。他国と比べて尋常でない点として、人口に比して高額な医療機器の保有数が、日本は2位と大差をつけ世界一です。人口100万人あたりのCTスキャンは112台で、2位のオーストラリアの65台やOECD加盟国平均の27台よりもはるかに多くなっています。人口100万人あたりのMRIは55台で、2位の米国の38台やOECD加盟国平均の17台よりも多くなっています。
高額な医療機器を保有しているだけでは、病院経営は成り立たないので、それらが維持できる程度に診療報酬の単価が割高になっており、医療費が過剰になっています。新型コロナウイルス感染症の拡大で明らかになったように、人口あたりの病床数の多さからみても、過剰な病床が医療費を割高にしています。
さらに、わが国の医療では、他国よりも出来高払いが多用されています。受診回数が増えるほど、医療給付は増える構造となっています。その構造の下で、日本の外来受診回数は国民1人あたり年12.6回と、OECD加盟国平均の年6.8回を大きく上回っています。医薬品も認められるものが多く、高額なものであっても、一部を自己負担にするとの扱いはほとんどなく、一度認められれば、高額医薬品でも全て保険が適用され、医師の裁量で処方できます。
国内の病院はいつでもどこでも予約なしに受診でき、高額医療制度ももつ、こうした高コスト体質を温存したまま、さらなる高齢化を迎えて、なす術もなく負担増を甘受するわけにはいきません。外来医療でも、受診回数に応じて出来高払いで診療報酬を出すのをやめ、かかりつけ医が担う支払う形に変えて行くことも必要と思われます。
CTスキャンやMRIといった高額な医療機器や病床が、患者数に比して過剰であれば、早期にその数を適正水準に是正すべきです。特に、今後の人口動態は、地域によってかなり異なります。都市部では、高齢者人口がさらに増加していく地域もあれば、過疎部では高齢者人口さえ減少する地域もあります。今後は、地域別の患者数の変化に合わせ、これらの数を適正に管理していくことも必要になります。

(Wedge May 2021)
(吉村 やすのり)

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