iPS細胞を利用した新型コロナウイルス感染症の研究

新型コロナウイルス感染症の解明に、iPS細胞などの幹細胞を使って挑む研究が進んでいます。新型コロナは、人の細胞表面にあるたんぱく質であるACE2を足場にして感染すると言われています。iPS細胞は細胞表面にACE2がなく、新型コロナは感染しませんでした。iPS細胞に遺伝子を加えてACE2を細胞表面に作るようにすると、新型コロナウイルスが感染するようになったことにより、ACE2が感染に不可欠であると考えられます。
ウイルスが感染したiPS細胞に様々な治療薬候補を振りかける実験から、抗ウイルス薬のレムデシビルや生理活性物質のインターフェロンβなどに、ウイルスの増殖を抑える効果があることが確認されました。感染や重症化を左右する遺伝子の変異を突き止めれば、予防や治療に役立つことになります。iPS細胞に既存薬を投与する実験などで、骨粗しょう症治療薬や糖尿病治療薬などを試し、新型コロナの感染を抑える効果がある既存薬が複数見つけられています。
新型コロナは高齢者で重症化しやすいとされています。高齢者では感染した細胞を攻撃する免疫細胞の多様性が減り、新たなウイルスに対応しにくくなっています。免疫細胞に攻撃対象を教える細胞をiPS細胞から作り、高齢者に移植して免疫力を高める研究が検討されています。
iPS細胞以外の幹細胞を使う研究も進んでいます。肺から取り出した幹細胞として働く細胞をもとに、生体組織であるミニ肺を作り、治療薬の効果の検証や候補物質の絞り込みをしています。

(2021年5月7日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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