出生減が潜在成長率に与える影響

新型コロナウイルスの感染拡大などを背景にした出生数の減少が、日本の成長率に暗い影を落としています。人口減が進めば、将来の経済の担い手となる労働力も縮小が避けられません。コロナによる人口減は潜在成長率を0.1~0.2ポイント押し下げるとの見方もあります。
労働力人口は、少子高齢化を背景に1990年代にマイナスに転じました。今後も人口減少が進むため、潜在成長率を左右する要素の一つである労働力は、経済成長の下押し圧力となります。内閣府の試算によれば、1980年代の潜在成長率は平均4%強で、うち労働力人口の増加など労働供給による押し上げが平均0.6ポイントありました。1990年代から労働は押し下げ要因に働き、2000年代は平均0.3ポイントのマイナス寄与となってしまいました。この時の潜在成長率も平均0.6%程度まで落ち込みました。
2010年代は、アベノミクスなどで景気は改善が続いたものの、潜在成長率は平均0.7%程度とほぼ変わらず、労働の寄与もほぼゼロでした。現在の出生数の減少は20年後の労働力に影響を与えることになります。コロナ禍による少子化は、2040年代の潜在成長率に0.1~0.2ポイントの下押し圧力をかけるだろうと分析されています。新型コロナの影響で国境を越える労働者の移動が鈍っていることも足元の懸念材料です。厚生労働省によると、外国人労働者数は前年比4.0%増で、前年の増加率(13.6%増)から大幅に鈍化しました。経済協力開発機構(OECD)によると2020年上半期に加盟各国に向かった移民数は前年同期の半分に落ち込みました。コロナ感染が収束するまでは、国を超える労働者の動きは停滞したままです。人口減による日本人の減少を外国人で補うのは容易ではありません。
妊娠届や婚姻数も減少し、2021年の出生数は80万人割れと減少が加速します。少子化を抑えるには、保育所の整備などで夫婦で働きながら子育てしやすい環境づくりが引き続き重要になります。少子高齢化が進めば、社会保障の担い手となる現役世代が減り、医療や介護、年金制度の持続可能性も危うくなってきます。コロナ収束後も出生数の大きな低下が続くなら、人口問題はさらに厳しいものになってきます。

(2021年5月26日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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