病院で働く勤務医は20万8,000人と、医師全体の6割強を占めています。このうち5万6,000人は、大学病院などで診療にあたっています。勤務医の長時間労働は過酷です。コロナ前の2019年に常勤者の残業時間を調べた調査では、4割弱が過労死水準とされる年960時間を上回り、1割は年1,860時間を超えています。
医師の3割にあたる10万4,000人は、クリニックなどの診療所で働いています。入院機能がないところが大半です。診療所で働く7割は、施設を開設したり代表を継いだりした開業医です。平均年齢は60歳と、病院勤務医の44.8歳と比べて高齢です。70歳以上が2割を占めています。
高齢で感染時の重症化リスクが高いことを理由に、コロナ患者への対応を拒む医師もいます。医師会が守ってきた診療所には、内科でも今なお発熱患者を拒むところが少なくありません。コロナとの闘いの外側にいる医師がかなりいます。ワクチン接種には多くの診療所が手を挙げましたが、接種対象者を日頃の患者に限っている例が多くなっています。通常の診察を大きく減らし、地域の高齢者に幅広く接種するという開業医は少数です。
発熱や体調不良の患者が最初に相談する窓口は、本来住民に身近な診療所であるべきです。日本ではその役割を保健所が引き受け、そして業務逼迫でパンクしてしまいました。コロナ禍は診療所の存在意義も問いかけています。日本医師会は、コロナ禍での病床逼迫のみを訴えて危機感だけを煽ってきましたが、診療所でのコロナ対応についての提言をしてきたとは思えないのは残念です。
(2021年5月31日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)